相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。(民法939条)
そのため、相続財産を取得すると、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしても、法律上は単純承認をしたとみなされ(民法921条1項)、被相続人の債務も相続することになります。

しかし、法律上で相続財産に含まれないもの過去の判例により認められているもの相続放棄をしても取得することが出来ます。

1 法律上、相続財産を構成しないもの


1) 死亡保険金(受取人が被相続人以外に指定されているものに限る)

受取人が被相続人以外に指定されている死亡保険金は、保険会社から指定された者へ直接支払われるものであり、被相続人の財産を形成するものではありません。
従って、被相続人が契約者の生命保険でも、受取人が被相続人以外に指定されている保険金は相続放棄をしても受け取れます。
受取人が「相続人」や「法定相続人」と指定されていても、同様に受け取れます。

唯一、受け取れないのは、受取人が「被相続人」と指定されている場合です。
この場合は、死亡保険金は被相続人の財産を形成するものになり、その保険金を受け取るということは、被相続人の財産を処分したことになるので、相続放棄は出来なくなります。

なお、医療保険の入院・通院に関する給付金などは被相続人が受取人に指定されている場合が多いので注意が必要です。

税金に関しては、みなし相続財産という考え方があり、上記とは異なる場合があります。
また、死亡保険金は、被保険者・受取人が誰であるかによって、課税される税金が異なります。

みなし相続財産についてはコチラ

死亡保険金の課税される税金についてはコチラ


2) 未支給年金

未支給年金とは、年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったもののことを言います。
例えば、2月分と3月分の年金を4/15支給予定であったが、4/10に死亡した場合は、本来は支給すべき2月分と3月分の年金が支給されていない状態になります。
このような年金のことを未支給年金といいます。

未支給年金は、被相続人の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものが、自己の名で請求することができます。
自己の名で請求できるとは、自分の財産として請求できるという意味です。
つまり、被相続人の財産には該当しないため、支給を受けても相続財産を処分したことにはならず、相続放棄をしても受け取ることが出来るのです。

なお、未支給年金は、老齢年金の他、障害年金や遺族年金の年金給付の受給権者が死亡した場合にも発生します。

未支給年金の支給を受けるには、被相続人と生計を同じくしていたものである必要があり、支給を受けるべき者の順位は、政令で定められています。(国民年金法19条、厚生年金法37条)

また、請求をしないと支給されませんので、要件に該当する方は、きちんと手続きをしましょう。


3) 葬祭費、埋葬料

葬祭費や埋葬料とは、葬儀費用の一部が国民健康保険や健康保険から支給される費用のことです。
被相続人が加入していたのが国民健康保険、後期高齢者医療の場合は「葬祭費」(国民健康保険法58条、高齢者の医療の確保に関する法律86条)、健康保険の場合は「埋葬料」(健康保険法100条)と呼ばれます。
これらも、支給を受ける人に直接支給され、被相続人の財産には該当しないため、相続放棄をしても受け取ることが出来るのです。

4) 遺族年金(死亡一時金)

遺族年金(死亡一時金)は、被相続人へ支給されるのはなく、その名のとおり遺族の方へ支給される年金ですので、被相続人の財産には該当しないため、支給を受けても相続財産を処分したことにはならず、相続放棄をしても受け取ることが出来ます。

遺族年金を受給できる条件は細かく規定されていますので、しっかりと確認しましょう。



2 判例上、認められているもの


1) 葬儀費用

相続放棄をすると、被相続人の遺産の処分はすることが出来ないのが原則ですが、裁判所は、葬儀費用については、被相続人の預金からの支出を一定の要件のもとで認めています。
これは、お金がないために、葬儀も行えないというのはむしろ非常識な結果といわざるを得ないと判断されるためです。

ただし、社会的見地からみて不当といえない程度の葬儀費用である必要があります。
身分不相当な葬儀費用を被相続人の財産で支払えば、相続放棄が認められない可能性もありますので、十分に注意をしましょう。


後日、「不当といえない程度の葬儀費用」である事を、証明するためにも、葬儀費用の請求書・領収書は保管しておく方が良いでしょう。

なお、被相続人の遺産から支払わなければそもそも問題にならないので、被相続人の遺産から支払わない方が望ましいと言えます。


2) 形見分け

被相続人が生前に使っていた愛用品などを親族などで分けることを形見分けといいますが、相続放棄をすると、この形見分けもできないのでしょうか。

相続放棄をしても、一般的経済価値のないものの形見分けに関しては許されると、裁判所は判断しています。
これは、法定単純承認事由に該当する相続財産の処分とは、一般的経済価額のある相続財産の法律上又は事実上の現状・性質を変ずる行為のことで、一般的経済価値のないものを処分しても、相続財産を処分したとはいえないためです。

逆に、一般的経済価値のあるものの形見分けは相続財産を処分したとみなされ、法定単純承認事由に該当し、相続放棄ができなくなるため注意が必要です。

上に記載したように、形見分けをしたことで、相続放棄が認められなくなるか否かは、形見分けの対象物が一般的経済価値があるか否かによります。

つまり、「相続放棄が認められる形見分け」も、「相続放棄が認められない形見分け」もあるということです。

形見分けをした場合は、何を形見分けしたのかわかるようにしておくことが重要です。


3) 債務の弁済

相続放棄をする場合は、「被相続人の債務」を「被相続人の財産で支払うこと」はできません。
これは、「被相続人の債務を支払う」ということより、「被相続人の財産で支払う」ということが相続財産の処分に該当するからです。

しかし、現実問題として、被相続人が相続発生の直前にお世話になってきた病院の費用等は支払いたいと考える方も見えます。
そのような場合は、「被相続人の財産で支払う」のではなく、「相続人の財産で支払う」ことは認められています。

被相続人の財産は減らずに、債務が減少するということは、他の債権者からみても利益になるためです。


後日の紛争防止のため、被相続人の債務を支払った場合は、支払ったお金の出所が被相続人の財産からでないことがわかる、客観的な証拠を保管しておきましょう。