相続人の中には、いろいろな背景から、相続に関する権利の放棄を望む方も多く見えます。
ここでは、相続に関する権利の放棄として、「相続放棄」「遺産の放棄」「相続分の放棄」をみてみましょう。
※本サイトでの「遺産の放棄」とは、「自分は一切の財産を相続しない内容の遺産分割協議に同意すること」をさしています。

それぞれの主な特徴は以下のとおりです。

項目 相続放棄 遺産の放棄 相続分の放棄
手続き方法
家庭裁判所へ申述
遺産分割協議書への
署名押印
様式はない ※1
手続き期間
原則、相続人であることを
知ってから3か月以内
遺産分割の時
遺産分割の前
遺産分割協議への参加
不要
必要
不要 ※1
プラスの財産
承継しない
承継しない
承継しない
マイナスの財産
承継しない
承継する
承継する
相続分 ※2
初めから相続人でなかった
ものとして計算
変更なし
他の相続人が
法定相続分の割合で取得

※1 遺産分割調停などの家庭裁判所の手続き上で行う場合は、相続分放棄書に署名と実印押印のうえ、印鑑登録証明書を添付して提出することが求められることがあります。その後、裁判所が、遺産分割手続の当事者ではなくなる「排除決定」(家事事件手続法43条1項)という決定がされると、遺産分割手続の当事者ではなくなります。

※2 法定相続人が「配偶者」、「子A」、「子B」とした場合の相続分について、「相続放棄」と「相続分の放棄」の違いを表で説明すると以下の通りになります。

配偶者 子A 子B(放棄する相続人)
法定相続分
1/2
1/4
1/4
子B
相続放棄後
1/2
1/2
×
子B
相続分の放棄後
2/3 
計算式:1/2+(1/4×2/3)
1/3
計算式:1/4+(1/4×1/3)
×

  • 相続放棄・・・子Bがもともと相続人でなく、相続人が「配偶者」「子A」のみであったとして計算する。
  • 相続分の放棄・・・子Bの有してた相続分(1/4)は、配偶者と子Aの、もともとの法定相続分の割合である「配偶者:子A=2:1」の割合で各取得する

「遺産の放棄」と「相続分の放棄」は、債務については免除されません。債務の免除まで希望するのであれば、相続放棄を検討して下さい。

相続放棄について

「相続分の放棄」とは、「各共同相続人が遺産全体の上に持つ包括的持分または相続人の地位」という相続分の処分を認めた方法です。したがって、売買や贈与といった処分の方法もとれます。

「相続分の売買」「相続分の譲渡」について

なお、「相続分の放棄」を「特別受益」と混同されている方もみえます。特別受益とは「被相続人から婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」ことにより、相続分を修正することです。「相続分の放棄」は、そのような事情がなくとも手続きがとれます。

「特別受益」について